明 細 書
電子材料用銅合金
技術分野
[0001] 本発明は析出型銅合金に関し、とりわけ各種電子部品に用いるのに好適な Cu_N i一 Si系銅合金に関する。
背景技術
[0002] リードフレーム、コネクタ、ピン、端子、リレー、スィッチ等の電子部品等に使用される 電子材料用銅合金には、基本特性として高強度及び高導電性 (又は熱伝導性)を両 立させることが要求される。近年、電子部品の高集積化及び小型化 ·薄肉化が急速 に進み、これに対応して電子部品等に使用される銅合金に対する要求レベルはます ます高度化している。
[0003] し力しながら、銅合金に限らず合金は一般にそれを構成する成分元素や組織の他 、熱処理の方法等によっても影響を受け、合金の成分元素やその添加量、熱処理の 方法等を微妙に変えた場合に合金の性質にどのような影響を与えるかについては、 一般的に予測可能性が極めて低ぐ高まり続ける要求レベルに満足するような新規 銅合金開発は困難を極めている。
[0004] 高強度及び高導電性の観点から、近年、電子材料用銅合金としては従来のりん青 銅、黄銅等に代表される固溶強化型銅合金に替わり、時効硬化型の銅合金の使用 量が増加している。時効硬化型銅合金では、溶体化処理された過飽和固溶体を時 効処理することにより、微細な析出物が均一に分散して、合金の強度が高くなると同 時に、銅中の固溶元素量が減少し電気伝導性が向上する。このため、強度、ばね性 などの機械的性質に優れ、しかも電気伝導性、熱伝導性が良好な材料が得られる。
[0005] 時効硬化型銅合金のうち、 Cu_Ni_Si系銅合金は比較的高い導電性と強度、応 力緩和特性及び曲げ力卩ェ性を兼備する代表的な銅合金であり、業界において現在 活発に開発が行われている合金の一つである。この銅合金では、銅マトリックス中に 微細な Ni— Si系金属間化合物粒子が析出することにより強度と導電率が上昇する。
[0006] 強度に寄与する Ni— Si系金属間化合物の析出物は化学量論組成で一般に構成
されており、例えば、特開 2001— 207229号公報では合金中の Niと Siの質量比を 金属間化合物である Ni Siの質量組成比(Niの原子量 X 2: Siの原子量 X 1)に近づ けることにより、すなわち Niと Siの質量比を Ni/Si = 3〜7とすることにより良好な電 気伝導性が得られることが記載されてレ、る。
[0007] また、特許第 3510469号明細書では Coは Niと同様に Siと化合物を形成し、機械 的強度を向上させ、 Cu_Co_ Si系は時効処理させた場合に、 Cu_Ni_ Si系合金 より機械的強度、導電性共に僅かに良くなる旨が記載されている。そしてコスト的に 許されるのであれば、 Cu_Co_ Si系や Cu_Ni_Co_Si系を選択してもよい旨が 記載されている。
更に、特許第 2572042号明細書では銅合金の性質に悪影響を及ぼすことのない 、珪化物(シリサイド)形成元素及び不純物の例として Coが挙げられており、そのよう な元素が存在する場合、それら元素は Niの同等量と置換して存在するべきである旨 、及びそのような元素は有効量約 1 %以下存在させることができる旨の記載がある。
[0008] し力 ながら、上記文献にも記載あるように Coは Niに比較して高価な元素であり、 実用上不利な側面を有しているため、 Coを添カ卩元素とした Cu—Ni— Si系合金に関 して詳細に研究されたことはこれまで少なかった。そして Coが Niと同様に Siと化合物 を形成し、 Niを Coに置換することで機械的強度、導電性が僅かによくなるとされてき たが、合金特性が飛躍的に向上するとは考えられていなかった。
[0009] 特許文献 1 :特開 2001— 207229号公報
特許文献 2 :特許第 3510469号明細書
特許文献 3:特許第 2572042号明細書
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0010] 本発明は、高強度及び高導電性 (又は熱伝導性)を両立させた、優れた特性を有 する析出硬化型銅合金を提供することを課題とし、より詳細には Coを添加することで 導電性の低下をできるだけ抑えつつ強度を飛躍的に向上させた、電子材料用 Cu— Ni— Si系合金を提供することを課題とする。
課題を解決するための手段
[0011] 本発明者らは、高度化する電子材料に使用される銅合金に対する要求レベルに対 応すべく鋭意研究を行い、 Coを含む Cu—Ni— Si系合金に着眼するに至った。その 後、 Coを含む Cu— Ni— Si系合金について検討を重ねた結果、 Coを含む Cu—Ni _ Si系合金の強度が、ある組成条件の下では従来説明されていたものより飛躍的に 向上することを見出した。また、該組成条件を満たす Cu_Ni_ Si系合金は強度向 上に伴う導電性の低下が小さぐ曲げ性、応力緩和特性及び半田濡れ性においても 良好な特性を示すことを見出した。
[0012] 本発明は、上記知見に基づきなされたものであり、一側面において、 Ni :約 0. 5〜 約 2. 5質量%、 Co :約 0. 5〜約 2. 5質量%、及び Si :約 0. 30〜約 1. 2質量%を含 有し、残部 Cuおよび不可避的不純物から構成され、該合金組成中の Niと Coの合計 質量の Siに対する質量濃度比([Ni + Co] ZSi比)が約 4≤[Ni + Co]/Si≤約 5で あり、該合金組成中の Niと Coの質量濃度比(NiZCo比)が約 0. 5≤NiZCo≤約 2 である電子材料用銅合金である。
[0013] また、本発明は別の一側面において、更に Crを最大約 0. 5質量%まで含有する電 子材料用銅合金である。
[0014] また、本発明は更に別の一側面において、更に P、 As、 Sb、 Be、 B、 Mn、 Mg、 Sn 、 Ti、 Zr、 Al、 Fe、 Zn及び Agよりなる群から選択される 1種又は 2種以上を合計で最 大約 2. 0質量%まで含有する電子材料用銅合金である。
[0015] また、本発明は更に別の一側面において、上記銅合金を用いた伸銅品である。
[0016] また、本発明は更に別の一側面において、上記銅合金を用いた電子部品である。
[0017] また、本発明は更に別の一側面において、
- Ni:約 0. 5〜約 2. 5質量%、 Co :約 0. 5〜約 2. 5質量%、及び Si:約 0. 30〜 約 1. 2質量%を含有し、残部 Cuおよび不可避的不純物から構成され、 Niと Coの合 計質量の Siに対する質量濃度比([Ni + Co] ZSi比)が約 4≤[Ni + Co]/Si≤約 5 であり、 Niと Coの質量濃度比(NiZCo比)が約 0. 5≤Ni/Co≤約 2であるインゴッ トを溶解铸造する工程と、
- 熱間圧延工程と、
- 冷間圧延工程と、
- 約 700°C〜約 1000°Cに加熱後、毎秒 10°C以上で冷却する溶体化処理工程と 随意的な冷間圧延工程と、
- 約 350°C〜約 550°Cで行なう時効処理工程と、
- 随意的な冷間圧延工程と、
をこの順に行なうことを含む電子材料用銅合金の製造方法である。
[0018] 本発明に係る製造方法の一実施形態では、前記インゴットは更に Crを最大約 0. 5 質量%まで含有することができる。
[0019] 本発明に係る製造方法の別の一実施形態では、前記インゴットには更に P、 As、 S b、 Be、 B、 Mn、 Mg、 Sn、 Ti、 Zr、 Al、 Fe、 Zn及び Agよりなる群力 選択される 1種 又は 2種以上を合計で最大約 2. 0質量%まで含有することができる。
発明の効果
[0020] 本発明によれば、導電性の低下をできるだけ抑えつつ強度を飛躍的に向上させ、 かつ応力緩和特性及び半田濡れ性においても良好な特性を示す電子材料用 Cu— Ni— Si系合金を提供できる。
図面の簡単な説明
[0021] [図 1]本発明の実施例と比較例についての強度 (YS)と導電率 (EC)の関係を示す 図である。
発明を実施するための最良の形態
[0022] Ni、 Co及び Siの添加量
Ni、 Co及び Siは、適当な熱処理を施すことにより金属間化合物を形成し、導電率を 劣化させずに高強度化が図れる。以下、 Ni、 Co及び Siの個々の添カ卩量について説 明する。
Ni及び Coについては Ni :約 0. 5〜約 2. 5質量%、〇0 :約0. 5〜約 2. 5質量%と することが目標とする強度と導電率を満たすために必要であり、好ましくは Ni :約 1. 0 〜約 2. 0質量%、 Co :約 1. 0〜約 2. 0質量%、より好ましくは Ni :約 1. 2〜約 1. 8質 量%、 Co :約 1. 2〜約 1. 8質量%である。しかし夫々 Ni:約 0. 5質量%、 Co :約 0. 5質量%未満だと所望の強度を得られず、逆に約 Ni : 2. 5質量%、約 Co : 2. 5質量
%を超えると高強度化は図れるが導電率が著しく低下し、更には熱間加工性が低下 するので好ましくない。
Siについては約 0. 30〜約 1. 2質量%とすることが目標とする強度と導電率を満た すために必要であり、好ましくは約 0. 5〜約 0. 8質量%である。しかし約 0. 3%未満 では所望の強度が得られず、約 1. 2質量%を超えると高強度化は図れるが導電率 が著しく低下し、更には熱間加工性が低下するので好ましくない。
[0023] 「Ni + Co,ZSi比
本発明では、更に合金組成中の Niと Coの総量の Siに対する質量濃度比([Ni + C o]/Si比)を規定した。
本発明では Ni/Si比を従来報告されている規定範囲約 3≤Ni/Si≤約 7よりも低 い数値範囲とすることにより、すなわち高 Si濃度に制御することにより、共に添加する Ni及び Coのシリサイド形成に Siが寄与し、また析出に寄与しない過剰 Ni及び Coの 固溶による導電率の低下を軽減できる。しかし、質量濃度比が [Ni + Co] /Siく約 4 の場合では、今度は Siの比率が高過ぎるため固溶 Siにより導電率が低下するだけで なぐ焼鈍工程において材料表層に SiOの酸化皮膜を形成するため半田付け性が
2
劣化する。また、強化に寄与しない Ni— Co— Si系析出粒子が粗大化しやすぐ曲げ 加工時の割れ発生の起点やめつき不良部となりやすい。一方 Siに対する Ni及び Co の割合を高くしていき、 [Ni + Co]/Si>約 5となるとシリサイド形成に必要な Siが不 足して高レ、強度が得られなレ、。
よって本発明では、合金組成中の [Ni + Co] /Si比を約 4≤[Ni + Co]/Si≤約 5 の範囲に制御する。
[Ni + Co]/Si比は好ましくは約 4. 2≤[Ni + Co] ZSi≤約 4. 7である。
[0024] NiZCo比
本発明では、更に合金組成中の Niと Coの質量濃度比(NiZCo比)を規定した。理 論によって本発明が限定されることを意図するものではなレ、が、 Ni及び Coは共に Si との化合物生成に寄与するのみならず、相互に関係しあって合金特性を改善するも のと考えられる。 Ni/Co比を約 0. 5≤Ni/Co≤約 2の範囲とすることにより、強度の 向上が顕著に見られる。好ましくは約 0. 8≤NiZCo≤約 1. 3である。しかし、質量
濃度比が約 Ni/Co<約 0. 5の場合では、高強度が得られるものの導電率が低下す る。また、溶解铸造時の凝固偏析の原因にもなる。一方 Ni/Co >約 2の場合では、 Ni濃度が高すぎるため導電率が低下し、好ましくなレ、。
[0025] Crの添加量
本発明では上記の Coを含む Cu_Ni_Si系合金に Crを最大で約 0. 5質量%、好 ましくは約 0. 09〜約 0. 5質量%、より好ましくは約 0. 1〜約 0. 3質量%添加しても よレ、。 Crは適当な熱処理を施すことにより銅母相中で Cr単独または Siとの化合物と して析出し、強度を損なわずに導電率の上昇を図ることができる。ただし、約 0. 09質 量%未満ではその効果が小さぐ約 0. 5質量%を超えると強化に寄与しない粗大な 介在物となり、加工性及びめつき性が損なわれるため好ましくない。
[0026] その他の添加元素
P、 As、 Sb、 Be、 B、 Mn、 Mg、 Sn、 Ti、 Zr、 Al、 Fe、 Zn及び Agは所定量を添カロ することで様々な効果を示すが、相互に補完し、強度、導電率だけでなく曲げ加工性 、めっき性ゃ铸塊組織の微細化による熱間加工性の改善のような製造性をも改善す る効果もあるので上記の Coを含む Cu—Ni— Si系合金にこれらの 1種又は 2種以上 を求められる特性に応じて適宜添加することができる。そのような場合、その総量は 最大で約 2. 0質量%、好ましくは約 0. 001〜2. 0質量%、より好ましくは約 0. 01〜 1.0質量%である。逆にこれらの元素の総量が約 0. 001質量%未満だと所望の効果 が得られず、約 2. 0質量%を超えると導電率の低下や製造性の劣化が顕著になり好 ましくない。
[0027] 次に本発明の銅合金に関しては、 Cu—Ni— Si系合金の慣例の製造方法により製 造可能であり、当業者であれば組成や求められる特性に応じて最適な製法を選択す ることができるため特別の説明を要しないと考えられる力 以下に例示目的のための 一般的な製造方法を説明する。 Cu_Ni_Si系銅合金の一般的な製造プロセスでは 、まず大気溶解炉を用い、電気銅、 Ni、 Si、 Co等の原料を溶解し、所望の組成の溶 湯を得る。そして、この溶湯をインゴットに铸造する。その後、熱間圧延を行い、冷間 圧延と熱処理を繰り返して、所望の厚み及び特性を有する条ゃ箔に仕上げる。熱処 理には溶体化処理と時効処理がある。溶体化処理では、約 700〜約 1000°Cの高温
で加熱して、 Ni— Si系化合物や Co— Si系化合物を Cu母地中に固溶させ、同時に Cu母地を再結晶させる。溶体化処理を、熱間圧延で兼ねることもある。時効処理で は、約 350〜約 550°Cの温度範囲で lh以上加熱し、溶体化処理で固溶させた Ni及 び Siの化合物と Co及び Siの化合物を微細粒子として析出させる。この時効処理で 強度と導電率が上昇する。より高い強度を得るために、時効前及び/又は時効後に 冷間圧延を行なうことがある。また、時効後に冷間圧延を行なう場合には、冷間圧延 後に歪取焼鈍(低温焼鈍)を行なうことがある。
[0028] 但し、前記溶体化処理において加熱後の冷却速度を意識的に高くすると、本発明 に係る Cu— Ni— Si系銅合金の強度向上効果は更に発揮されることを本発明者は見 出した。具体的には、冷却速度を毎秒約 10°C以上、好ましくは約 15°C以上、より好 ましくは毎秒約 20°C以上として約 400°C〜室温まで冷却するのが効果的である。伹 し、冷却速度をあまりに高くすると、逆に強度上昇の効果が十分に得られなくなるた め、好ましくは毎秒約 30°C以下、より好ましくは毎秒約 25°C以下である。冷却速度の 調整は、当業者に知られた公知の方法で行なうことができる。一般的に単位時間当 たりの水量が減少すると冷却速度の低下を招くので、例えば、水冷ノズルの増設また は単位時間当たりにおける水量を増加することによって冷却速度の上昇を達成する こと力 Sできる。ここで、 "冷却速度"とは溶体化温度 (700°C〜1000°C)から 400°Cまで の冷却時間を計測し、 "(溶体化温度— 400) (°C) /冷却時間 (秒) "によって算出した 値 (°C/秒)をいう。
[0029] 従って、本発明に係る銅合金の製造方法の好適な一実施形態では、
Ni:約 0. 5〜約 2. 5質量%、 Co :約 0. 5〜約 2. 5質量%、及び Si:約 0. 30〜 約 1. 2質量%を含有し、残部 Cuおよび不可避的不純物から構成され、 Niと Coの合 計質量の Siに対する質量濃度比([Ni + Co] ZSi比)が約 4≤[Ni + Co]/Si≤約 5 であり、 Niと Coの質量濃度比(NiZCo比)が約 0. 5≤Ni/Co≤約 2であるインゴッ トを溶解铸造する工程と、
- 熱間圧延工程と、
- 冷間圧延工程と、
- 約 700°C〜約 1000°Cに加熱後、毎秒 10°C以上で冷却する溶体化処理工程と
随意的な冷間圧延工程と、
約 350°C〜約 550°Cで行なう時効処理工程と、
- 随意的な冷間圧延工程と、
をこの)噴に行なうことを含む。
[0030] また、本発明に係る製造方法の一実施形態では、前記インゴットは更に Crを最大 約 0. 5質量%まで含有することができる。
[0031] 本発明に係る製造方法の別の一実施形態では、前記インゴットには更に P、 As、 S b、 Be、 B、 Mn、 Mg、 Sn、 Ti、 Zr、 Al、 Fe、 Zn及び Agよりなる群力 選択される 1種 又は 2種以上を合計で最大約 2. 0質量%まで含有することができる。
[0032] なお、当業者であれば、上記各工程の合間に適宜、表面の酸化スケール除去のた めの研削、研磨、ショットブラスト酸洗等の工程を行なうことができることは理解できる だろう。
[0033] 本発明による Cu—Ni— Si系銅合金は特定の実施形態において、 0. 2%耐力が 8 OOMPa以上でかつ導電率が 45%IACS以上とすることができ、更には 0· 2%耐カ 力 ¾40MPa以上でかつ導電率が 45%IACS以上とすることができ、更には 0. 2%耐 力力 ¾50MPa以上でかつ導電率が 45%IACS以上とすることもできる。
[0034] 本発明の Cu— Ni— Si系合金は種々の伸銅品、例えば板、条、管、棒及び線に加 ェすることができ、更に、本発明による Cu—Ni— Si系銅合金は、高い強度及び高い 電気伝導性 (又は熱伝導性)を両立させることが要求されるリードフレーム、コネクタ、 ピン、端子、リレー、スィッチ、二次電池用箔材等の電子部品等に使用することができ る。
実施例
[0035] 以下に本発明の具体例を示すが、これら実施例は本発明及びその利点をよりよく 理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではなレ、。
[0036] 本発明の実施例に用いる銅合金は、表 1に示すように Ni、 Co、 Cr及び Siの含有量 をいくつか変化させた銅合金に適宜 Mg、 Sn、 Zn、 Ag、 Tiおよび Feを添加した組成 を有する。また、比較例に用いる銅合金は、それぞれ本発明の範囲外のパラメータを
もつ Cu—Ni—Si系合金である。
[0037] 表 1に記載の各種成分組成の銅合金を、高周波溶解炉で 1100°C以上で溶製し、 厚さ 25mmのインゴットに铸造した。次いで、このインゴットを 900°C以上で加熱後、 板厚 10mmまで熱間圧延し、速やかに冷却を行った。表面のスケール除去のため厚 さ 9mmまで面削を施した後、冷間圧延により厚さ 0. 3mmの板とした。次に Niおよび Coの添加量に応じて 950°Cで溶体化処理を 5〜3600秒行レ、、これを直ちに冷却速 度:約 10°C/秒として 100°C以下にした。その後 0. 15mmまで冷間圧延して、最後 に添カ卩量に応じて 500°Cで各 1〜24時間かけて不活性雰囲気中で時効処理を施し て、試料を製造した。
[0038] このようにして得られた各合金につき強度及び導電率の特性評価を行った。強度 については圧延平行方向での引っ張り試験を行って 0. 2%耐カ(YS)を測定し、導 電率(EC; %IACS)については Wブリッジによる体積抵抗率測定により求めた。 曲げ加工性の評価は、 W字型の金型を用いて試料板厚と曲げ半径の比が 1となる 条件で 90° 曲げ加工を行なった。評価は曲げ力卩ェ部表面を光学顕微鏡で観察し、 クラックが観察されない場合を実用上問題ないと判断して〇とし、クラック力 S認められ た場合を Xとした。
応力緩和特性は、 EMAS— 3003に準拠して行なった。 150°Cの大気中で、 0. 2 %耐力の 80%に相当する曲げ応力を負荷し、 1000時間後の応力緩和率を評価し た。応力緩和特性の良比は、緩和率 20%を目安とし、これより低い場合を良好とした 。表面特性は半田付け性により評価を行った。半田付け性の評価はメニスコグラフ法 で行い、 235 ± 3°Cの 60%Sn— Pb浴に深さ 2mmで 10秒間浸漬し、半田が完全に 濡れるまでの時間、半田濡れ時間を測定した。なお半田付け性評価前の前処理は、 アセトン脱脂後、酸洗として 10vol%硫酸水溶液に 10秒間浸漬し、水洗 ·乾燥後、 2 5。/0ロジン一エタノール溶液中に試験片を 5秒間浸漬させフラックスを塗布した。半田 濡れ時間の良否の目安は 2秒以下を良好とした。
[0039] [表 1]
[ i÷Co]/ 応力緩和率 半田濡れ時間 実施例 Ni Co Si Cr その他 Si Ni Co YS EC 曲げ性 (%》 Cs)
1 O.70 0.70 0.30 4.67 1.00 730 51 o 12 0,6
2 0.70 1.00 0.40 4.25 0.70 740 5} o 12 0.7
3 GJO 1.30 0.43 4.65 0.54 750 49 o 15 0.7
4 1.30 0.70 0.47 4.26 1.86 790 47 o 14 0,9
5 1.30 1.30 0.60 4.33 ί.00 805 47 o 14 ί
6 1.30 1.S0 0.65 4.77 0.72 825 46 o 15 ¾.ο
7 2.00 1.20 0.72 4.44 1.6? 820 47 o 17 3,2
8 2.00 Ί.40 0.85 4,00 ).43 640 46 o 17 ί.2
9 2.00 1.80 0.B8 4.32 1.11 850 44 o 18 1 ,3
10 0.70 0.70 0.30 0.20 4.67 t oo 735 55 o 12 0.6
1 1 0.70 1.00 0.40 0,20 4.25 0.70 745 55 o M 0.7
12 0.70 1.30 0.43 0.20 4.65 0.54 755 53 o 13 07
13 1.30 0.70 0.47 0.20 4.26 1.86 795 51 o 15 0.9
14 1,30 1.30 0.60 Q.20 4.33 1.00 810 51 o 14
15 1.30 1.80 0,65 0,20 477 0.72 830 50 o 14 ι.ΰ
16 2.00 1.20 Q Z 0.20 4.44 1.67 325 51 o 14 .2
17 2.00 1.40 0.85 0.20 .00 1.43 845 50 o 14 1.2
I B 2.00 1.80 0.88 0.20 4.32 U1 855 48 o 15 ί.3
19 1.30 1.30 0.60 0.20 0 4,33 1.00 3S0 44 o ί5 0.8
20 1.30 1.30 0.60 0 20 0.5Sn 4,33 1.00 S25 49 o U 1.0
21 1.30 1 ,30 0,60 0.20 0.5Ζπ 4,33 1.00 830 48 o U 1,0
1,30 1.30 0.60 0.20 0.1 Ag 4.33 1,00 835 50 o 15 1 , 1
23 1.30 1.30 0,60 0.20 0.3Ti 4.33 1,00 820 51 o H U
24 1.30 1.30 0.60 0,20 0.2Fe 4.33 1.00 830 48 o 14 1.1
[Ni+Co]/ 応力緣和率 半 ilれ時間 比较例 Ni Co Si Cr その他 Si Ni/Co YS EC 曲げ性 {½) (s)
1 2,00 0.00 0,50 ― 4.00 - 580 40 o 10 2.2
2 0,40 0.40 0.20 一 4.00 1,00 560 60 o Ϊ3 0.8
3 0.40 1.00 0,30 一 4.67 0.40 580 61 o 10 0.7
4 一 .00 0.20 0.10 5.0Q - 550 62 o 23 1.2
5 一 2.60 0.62 ιο 4.19 - 70S 57 o 23 1.6
6 1.30 0.40 0.40 0.10 4.25 3.25 7B0 42 o 13 1.1
7 ί.80 0.80 0.60 一 4.33 2.25 789 42 o 13 1.2
2.20 tw 0.70 - 4.57 2.20 SZ9 43 o 12 1.β
9 2.70 1.00 0.80 0.10 433 2.70 8(» 3S o I t 2.8
0„50 1.50 0.50 0.10 ω 0.33 690 50 11 1,3
11 0.80 1.80 0,60 - 4.33 044 770 43 κ 2S 0.7
12 1.00 2.70 o.ao 4.63 0.37 770 40 23 1,3
13 1.00 1.20 0.70 0.Ϊ0 3.14 0.83 720 43 o 12 2.9
14 1.50 1.80 t .00 3.30 0.83 - 一 - -
I S 0.80 1.60 0.40 Ο.ΐΟ 6.00 0.50 680 50 o 1 5
16 1.30 1.30 0.40 - 6.50 1.00 710 45 o π 1,8
17 1.30 1.30 0.60 0.70 433 1.00 770 44 25 2.9
18 1,30 i.30 o,eo 0.10 1.1 Sn, 1.2∑n 433 1,00 800 35 o 92 1.8 特性評価の結果について表 1を参照しながら述べる。
Coを含まない比較例 1と比べて、本発明の実施例:!〜 16は、飛躍的な強度の向上 が見られ、導電率も向上していることがわかる。更に曲げカ卩ェ性、応力緩和特性及び 半田付け性も良好であることがわかる。そして Crを添加した実施例 10以降は導電率 の向上が見られ、更に Mgや Sn等を添加した実施例 19以降は強度の向上も付加さ れていることが理解できる。
比較例 1は Coを含まない例である。強度、導電率共に本発明に比べて劣っている のがわかる。更に、固溶 Si濃度が高ぐ酸化皮膜ができて半田付け性が劣化した。 比較例 2は Ni及び Coの個々の濃度が不足している例である。そのため、本発明の ような強度の顕著な向上が見られなかった。
比較例 3は、 Niが不足した例である。導電率の向上は見られたが強度の向上が見 られなかった。
比較例 4は、比較例 1とは対照的に Niを含まない例である。導電率の向上を図るベ く Crも添カ卩した。導電率は確かに向上した力 Niを含まないため強度の向上が見ら れなかった。また、晶出物が粗大となり、応力緩和率が低下した。
比較例 5も Niを含まなレ、が、比較例 4に比べて Coの添力卩量を高く 2. 6質量%とした 例である。強度及び導電率が Coを含まない比較例 1よりも向上したが本発明のような 強度の向上は見られない。また、晶出物が粗大となり、応力緩和率が極端に低下し た。
比較例 6は、 Ni/Co比が大きすぎる例である。強度の向上は見られたが導電率が 不足し、本発明のような強度と導電率の両立を達成できていない。
比較例 7も NiZCo比が大きすぎる例である。比較例 6よりも Ni/Co比を本発明の 規定範囲に近づけたが導電率が不足し、やはり本発明のような強度と導電率の両立 は達成できていない。
比較例 8も Ni/Co比が大きすぎる例である。比較例 7よりも更に Ni/Co比を本発 明の規定範囲に近づけ、臨界条件にかなり近づけたが、規定範囲よりも若干大きい ため本発明のような強度と導電率の両立は達成できていない。
比較例 9も Ni/Co比が大きすぎる例である。 Crを加えることで、導電率不足を補お うとした力 導電率の向上が図れないどころか逆に低下した。 Ni/Co比が大きすぎる と Crの効果が充分に発揮されないことを示唆している。更に、半田濡れ性も極端に 低下した。
比較例 10は、 Ni/Co比が小さすぎる例である。 Crの寄与もあり、 Ni/Co比が高 すぎる場合よりも導電率は改善したが、逆に強度が不足した。晶出物が粗大となり、 曲げ性も悪くなつた。応力緩和率も低下した。
比較例 11も NiZCo比が小さすぎる例である。比較例 10よりも Ni/Co比を本発明 の規定範囲に近づけた。強度の向上は見られたが導電率が不足し、本発明のような 強度と導電率の両立を達成できていない。更に、晶出物が粗大となり、曲げ性も悪く なった。応力緩和率も低下した。
比較例 12も Ni/Co比が小さすぎる例である。比較例 11に比べて Co濃度を高くし て、 Coによる強度や導電率への向上効果を期待した。しかし、強度は比較例 11と同 程度しか得られず、導電率は比較例 11に比べて低下してしまった。更に、晶出物が 粗大であり、曲げ性及び応力緩和率も悪レ、ままであった。
比較例 13は [Ni + Co] ZSi比が小さすぎる例である。強度の向上は見られたが Cr を含有しているにも拘わらず導電率の向上があまり見られず、本発明のような強度と 導電率の両立を達成できていない。また、半田濡れ性も悪かった。
比較例 14も [Ni + Co]/Si比が小さすぎる例である。 Si濃度が比較例 13に比べて 高ぐ熱間圧延時に割れを生じ、特性評価ができなかった。
比較例 15は [Ni + Co] /Si比が大きすぎる例である。 Crが含有してレ、ることも手伝 つて導電率の向上は見られたが強度の向上が少なぐ本発明のような強度と導電率 の両立は達成できていない。
比較例 16も [Ni + Co]/Si比が大きすぎる例である。比較例 15よりも Ni濃度を高く した。比較例 15に比べて強度は向上した力 やはり本発明のような強度と導電率の 両立は達成できていない。
比較例 17は実施例 5において Cr濃度を過乗 IJにカ卩えた例である。 Crが多すぎたた め強度及び導電率が低下し、実施例 5のような強度と導電率の両立を達成できなくな つた。また、粗大晶出物の残留により、曲げ加工性、半田濡れ性、応力緩和率がとも に劣化した。
比較例 18は実施例 5と同様の Ni、 Co及び Si組成を有するが、他の添加元素が多 すぎる例である。導電率が低下し、実施例 5のような強度と導電率の両立を達成でき なくなった。
[0041] 図 1に、実施例(1〜24)及び曲げカ卩ェ性、応力緩和特性及び半田濡れ性が良好 であった]:匕較 ί列(2、 3、 6、 7、 8、 15、 16、 17)並び ίこ Coを含まなレヽ];匕較 f列: Uこつレヽ ての強度 (YS)と導電率(EC)の関係を示した。本発明による Cu_Ni_Co_Si系 合金が強度と導電率を高い次元で両立できていることが視覚的に理解できる。
[0042] 冷去 束 が に る畺 ,の 討
次に、溶体化処理時の冷却速度が銅合金の強度及び導電率に与える影響を調查
した。試験は、先の実施例:!〜 18 (8及び 17を除く)に係る銅合金の製造過程におい て、溶体化処理時の冷却速度を約 5°C/秒又は約 20°C/秒に変え、それ以外は同 一条件とした場合に、それぞれ得られる銅合金の強度及び導電率の変化を調べるこ とで行った。結果を表 2に示す。冷却速度を高くする方が強度の向上を図ることがで きること力理角军できる。
[表 2]
No. 冷却速度 YS EC
(先の実施例の番号に対応) (°C/s) (MPa) (%IACS)
5 600 54
1 10 730 51
20 745 50
5 610 54
2 10 740 51
20 755 49
5 620 52
3 10 750 49
20 765 49
5 695 49
4 10 790 47
20 805 47
5 705 50
5 10 805 47
20 820 47
5 720 49
6 10 825 46
20 840 45
5 715 49
7 10 820 47
20 835 47
5 745 46
9 10 850 44
20 860 43
5 605 56
10 10 735 55
20 760 53
5 615 56
11 10 745 55
20 770 52
5 625 54
12 10 755 53
20 780 51
5 690 52
13 10 795 51
20 820 49
5 710 52
14 10 810 51
20 835 49
5 720 51
15 10 830 50
20 855 48
5 710 53
16 10 825 51
20 850 50
5 730 49
18 10 855 48
20 875 46
これまでの説明によって、本発明が属する分野の当業者であれば、本発明の本質 的な特徴の意図から逸脱することなく多くの改変及びその他の実施形態が思い浮か
ぶであろう。従って、本発明は開示した特定の実施形態に限定されるものではなぐ そのような改変及びその他の実施形態は添付の請求の範囲に含まれることが意図さ れていることが理解される。