明 細 書
スイッチング素子
技術分野
[0001] 本発明は、ナノギャップ金属電極を用いたスイッチング素子に関する。
背景技術
[0002] 現在、デバイスの小型化、高密度化に伴!ヽ、電気素子の一層の微細化が望まれて いる。また、機能性有機分子やナノ微粒子に代表される、いわゆるナノ構造の研究も 、進展がめざましい。電気素子にナノ構造の特性を利用することは、素子の微細化の ために有効と考えられ、研究機関、企業等で検討が盛んである。たとえば、微細な間 隙を隔てた 2つの電極(以下、このような電極の組は、「ナノギャップ電極」と呼ぶこと がある。)を用い、その間隙を機能性有機分子にて橋架けした素子が注目されている 。たとえば、、 Science, 289 (2000) 1172— 1175に記載の素子は、白金を用!/、て形 成されたナノギャップ電極の間隙に、カテナン系分子を配置したものである。この電 極に電圧を印加することにより、カテナン系分子は、酸化還元反応を受け、スィッチン グ動作が可能であるとの記載がある。
[0003] また、ナノギャップ電極としては、その間隙をナノ微粒子にて橋架けした素子も注目 されている。たとえば、 Nature, 433 (2005) 47— 50に記載の素子は、硫化銀およ び白金を用いてナノギャップ電極を作成し、その間隙に銀粒子を配置したものである 。この電極に電圧を印加することにより、電気化学反応を行い、銀粒子が伸縮するこ とで、電極間を架橋、切断でき、スイッチング動作が可能との記載がある。
[0004] ところが、例示した 、ずれのスイッチング素子も、ナノギャップ電極間に、特殊な合 成分子や複雑な金属の複合系を必要としている。そして、これらは、分子内の化学反 応または異種原子間の反応を利用する機構であるため、印加電圧の方向に依存性 を有し、スイッチング素子としての利用には、制限がある。また、スイッチング動作に化 学反応を利用するため、素子の劣化が起こりやすいという問題を有する。
[0005] また、例示した 、ずれのスイッチング素子も、ナノギャップ電極の間隙の間隔を十分 に小さく作成することは難しい。この課題に対しては、ナノギャップ電極間の間隙の間
隔の小さいナノギャップ電極の製造方法として、たとえば、特開 2005— 79335号公 報に開示された技術がある。
発明の開示
[0006] 本発明の目的は、構造が極めて単純で、かつ、安定した繰り返しスイッチング動作 が可能な、不揮発性スイッチング素子を提供することにある。
[0007] 本発明のスイッチング素子は、
絶縁性基板と、
前記絶縁性基板の上に設けられた、第 1電極と、
前記絶縁性基板の上に設けられた、第 2電極と、
前記第 1電極と前記第 2電極との間に設けられ、前記第 1電極と前記第 2電極との 間の距離 Gが、 Onm< G≤50nmである、電極間間隙と、
を含む。
[0008] このように構成することで、構造が極めて単純で、かつ、安定した繰り返しスィッチン グ動作が可能な、不揮発性スイッチング素子を提供することができる。
[0009] 本発明にお 、て、前記、距離 Gは、前記第 1電極と前記第 2電極の間の電極間間 隙における最接近部位の、電極間距離を指す。
[0010] 本発明のスイッチング素子において、前記第 1電極と前記第 2電極との間の距離 G は、 0. lnm≤G≤20nmとすることができる。
[0011] 本発明のスイッチング素子において、さらに、少なくとも前記電極間間隙を内包する 封止部材を有することができる。
[0012] 本発明のスイッチング素子において、前記封止部材の内部は、圧力が、 2 X 105Pa 以下とすることができる。
[0013] 本発明のスイッチング素子において、前記第 1電極の材質は、金、銀、白金、パラジ ゥム、ニッケル、アルミニウム、コノ ノレト、クロム、ロジウム、銅、タングステン、タンタノレ、 カーボンおよび、それらの合金、カゝら選ばれる 1種とすることができる。
[0014] 本発明のスイッチング素子において、前記第 2電極の材質は、金、銀、白金、パラジ ゥム、ニッケル、アルミニウム、コノ ノレト、クロム、ロジウム、銅、タングステン、タンタノレ、 カーボンおよび、それらの合金、カゝら選ばれる 1種とすることができる。
[0015] 本発明のスイッチング素子において、前記第 1電極および前記第 2電極の少なくと も一方は、多層構造とすることができる。
[0016] 本発明にお 、て、前記第 1電極と前記第 2電極との間の電気抵抗値は、前記スイツ チング素子が ONの状態では、 11^ Ω〜1Μ Ωであり、前記スイッチング素子が OFFの 状態では、 1Μ Ω〜: LOOT Ωとすることができる。
図面の簡単な説明
[0017] [図 1]本発明の実施形態に力かるスイッチング素子 100の要部を模式的に示す断面 図。
[図 2]本発明の実施形態に力かるスイッチング素子 100の要部の拡大を模式的に示 す断面図。
[図 3]本発明の実施形態に力かるスイッチング素子 100を模式的に示す平面図。
[図 4]本発明の実施形態に力かるスイッチング素子 100に封止部材を設け、スィッチ ングデバイス 1000とした例を示す模式図。
[図 5]本発明の実施形態に力かるスイッチング素子 100の製造工程における第 1の蒸 着工程を模式的に示す断面図。
[図 6]本発明の実施形態に力かるスイッチング素子 100の製造工程における電界破 断工程に用いる回路を模式的に示す回路図。
[図 7]ナノギャップ電極を有するスイッチング素子の電流 電圧曲線の一例を示す模 式図。
[図 8]ナノギャップ電極を有するスイッチング素子を動作するための電圧シーケンスの 一例を示す模式図。
[図 9]本発明の実施形態に力かるスイッチング素子 100の電極間間隙 40の走査型電 子顕微鏡観察結果。
[図 10]本発明の実施形態にカゝかるスイッチング素子 100の動作確認および抵抗測定 をおこなう回路を模式的に示す回路図。
[図 11]本発明の実施形態に力かるスイッチング素子 100の電流—電圧特性の測定 結果を示すプロット。
[図 12]本発明の実施形態に力かるスイッチング素子 100の繰り返しスィッチング動作
をおこなうための電圧シーケンスを示す模式図。
[図 13]本発明の実施形態に力かるスイッチング素子 100の繰り返しスィッチング動作 をおこなったときの抵抗値のプロット。
[図 14]本発明の実施形態に力かるスイッチング素子 100における、 OFFパルスの電 圧に対する OFF状態の抵抗値のプロット。
発明を実施するための最良の形態
[0018] 以下に本発明の好適な実施形態の一例について、図面を参照しながら説明する。
[0019] 1.スイッチング素子
図 1は、本実施形態のスイッチング素子 100の要部を模式的に示す断面図である。 図 2は、スイッチング素子 100の要部を拡大して模式的に示す断面図である。図 3は 、本実施形態のスイッチング素子 100の要部を模式的に示す平面図である。図 4は、 スイッチング素子 100に封止部材を設け、スイッチングデバイス 1000とした例を示す 模式図である。
[0020] 本実施形態にカゝかるスイッチング素子 100は、絶縁性基板 10と、絶縁性基板 10の 上に設けられた第 1電極 20と、絶縁性基板 10の上に設けられた第 2電極 30と、第 1 電極 20と第 2電極 30の間に設けられ、かつ、第 1電極 20と第 2電極 30との間の距離 G力 0nm< G≤50nmである電極間間隙 40とを有する。
[0021] 絶縁性基板 10は、スイッチング素子 100の 2つの電極 20, 30を隔てて設けるため の支持体としての機能を有する。絶縁性基板 10は、絶縁性能を有せば、構造、材質 ともに特に限定されない。たとえば、絶縁性基板 10の表面の形状は、平面であっても よいし、凹凸を有していてもよい。また、たとえば、 Si等の半導体基板の表面に酸ィ匕 膜等を設け、これを絶縁性基板 10として用いてもよいし、絶縁性の基板そのものであ つてもよい。絶縁性基板 10の材質は、ガラス、酸化珪素(SiO )などの酸ィ匕物、窒化
2
珪素(Si N )などの窒化物、が好適である。なかでも、絶縁性基板 10の材質としては
3 4
、酸化珪素(SiO )が、後述の電極 20、 30との密着性の点と、その製造において自
2
由度が大き 、点で好適である。
[0022] 第 1電極 20は、絶縁性基板 10の上に設けられる。第 1電極 20は、スイッチング素子 100の一方の電極であり、後述の第 2電極 30と対になり、スイッチング動作を可能に
する。第 1電極 20の形状は、任意であるが、少なくとも、後述の第 2電極 30と対向す る部位の横方向の大きさ W1 (図 3参照)は、 5nm≤Wlの範囲であることが望ましい 。第 1電極 20の厚み T1 (図 1、 2参照)は、任意である力 後述の第 2電極 30を形成 した後の状態において、 5nm≤Tlであることが望ましい。なお、図 1、 2には、後述の 工程説明の便宜上、第 1電極 20は、第 1電極下部 22と第 1電極上部 24とをあわせた ものとして描いてある。第 1電極 20の材質は、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル、ァ ルミ-ゥム、コバルト、クロム、ロジウム、銅、タングステン、タンタル、カーボンおよび、 それらの合金、力も選ばれる少なくとも 1つであることが好ましい。また、絶縁性基板 1 0との接着性を強化するために、異なる金属を 2層以上重ねて用いてもよい。たとえ ば、第 1電極 20は、クロムおよび金の積層構造とすることができる。
[0023] 第 2電極 30は、絶縁性基板 10の上に設けられる。第 2電極 30は、スイッチング素子 100の他方の電極であり、前述の第 1電極 20と対になり、スイッチング動作を可能に する。第 2電極 30の形状は、任意であるが、少なくとも、前述の第 1電極 20と対向す る部位の第 2電極 30の横方向の大きさ W2 (図 3参照)は、 5nm≤W2≤Wlの範囲 であることが望ましい。第 2電極 30の厚み T2は、任意である力 電極の強度、支持体 からの剥離強度の点で、 5nm≤T2≤Tlが望ましい。第 2電極 30の材質は、金、銀、 白金、パラジウム、ニッケル、アルミニウム、コバルト、クロム、ロジウム、銅、タンダステ ン、タンタル、カーボンおよび、それらの合金、力も選ばれることが好ましい。また、絶 縁性基板 10との接着性を強化するために、異なる金属を 2層以上重ねて用いてもよ い。たとえば、第 2電極 30は、クロムおよび金の積層構造とすることができる。
[0024] 電極間間隙 40は、第 1電極 20と第 2電極 30との間の距離 G力 0nm< G≤50nm 、たとえば 0. lnm≤G≤20nmとなるように設けられる(図 2参照)。さらに好ましくは、 0. lnm≤G≤10nmとすることができる。電極間間隙 40は、スイッチング素子 100の スイッチング現象を発現する役割を有する。電極間の最近接部位は、第 1電極 20と 第 2電極 30とが対向する領域に、 1力所または複数箇所、形成されてもよい。上限値 は、 50nmを超えると、金属元素が動いて、スイッチング素子 100が動作するための 電界が不足するという理由により不適切である。下限値は、 Onmとすると、第 1電極 2 0と第 2電極 30とが短絡していることになる。前記下限値は、顕微鏡測定によって決
定することは困難であるが、トンネル電流が生じうる最小距離であるということができる 。すなわち、該下限値は、素子が動作したときに、電流 電圧特性が、オームの法則 に従わず、量子力学的なトンネル効果が観測される距離の理論値である。
[0025] 封止部材 50は、少なくとも前述の電極間間隙 40を内包するように設けることができ る。封止部材 50は、絶縁性基板 10を含め全体が封止されることが望ましい。封止部 材 50は、電極間間隙 40が大気に接触しないようにする機能を有する。封止部材 50 は、前記機能を有する限り、その形状、材質ともに任意である。封止部材 50は、スィ ツチング素子 100をさらに安定に動作させる作用を有する。封止部材 50の材質は、 公知の半導体封止材料を用いることができ、必要に応じて、公知の物質からなる気 体バリヤ層等を設けてもょ ヽ。ナノギャップ電極の全体をたとえば適当な真空チャン バー内に設置して、これをスイッチング素子として使用する場合は、この部材は省略 できる。
[0026] 封止部材 50の内部は、減圧環境とすることができるほか、種々の物質で満たすこと ができる。封止部材 50の内部は、圧力が 2 X 105Pa以下とすることができる。より好ま しくは、封止部材 50の内部または、ナノギャップ電極が設置される真空チャンバ一内 は、その圧力 P力 SlO_9Pa< P< 2 X 105Paとする。一方、封止部材 50の内部は、乾 燥空気、窒素、希ガス等の不活性な気体または、トルエンなどの電気的に不活性な 有機溶剤で満たすことも可能である。
[0027] 2.スイッチング素子の製造方法
スイッチング素子 100の製造方法は、以下の工程を有することができる。
[0028] すなわちスイッチング素子 100の製造方法は、(1)絶縁性基板 10を準備する工程 、(2)第 1のレジストパターン形成工程、(3)第 1の蒸着工程、(4)第 1のリフトォフエ 程、(5)第 2のレジストパターン形成工程、(6)第 2の蒸着工程、(7)第 2のリフトオフ 工程、(8)電界破断工程および、(9)封止工程を含む。ここで、工程説明の便宜のた め、第 1電極 20は、第 1電極下部 22と第 1電極上部 24とからなることとし、図 1のよう に符号を付す。
[0029] これらの工程は、特開 2005— 79335号公報に開示されている。ナノギャップ電極 の製造方法としては、前記公報に記載の方法のみならず、特開 2004— 259748号
公報、または、特開 2005— 175164号公報に記載された方法によっても、製造する ことができる。本実施形態では、特開 2005— 79335号公報に記載の方法に準じて スイッチング素子 100を製造する。以下に順次、その工程を図 1ないし図 6を参照しな がら説明する。図 5は、第 1の蒸着工程の説明のための模式図である。図 6は、電界 破断工程で構成される回路の模式図である。
[0030] (1)絶縁性基板 10を準備する工程
絶縁性基板 10は、市販のガラス基板、酸化膜付き Si基板、その他表面が絶縁性の 基板を用いることができる。また、 Si等の導電性の基板を用いる場合には、その表面 に所望の絶縁膜を、熱処理、酸化処理、蒸着、スパッタ等の公知の方法によって設 け、これを絶縁性基板 10として用いることができる。
[0031] (2)第 1のレジストパターン形成工程
準備した絶縁性基板 10に、公知の方法たとえばフォトリソグラフィ一等を用いて、第 1電極下部 22を形成するためのレジストパターン 60を形成する。該レジストパターン 60の厚みは、その機能を果たす限り、任意である。たとえば、該レジストパターン 60 の厚みは 1 μ mとすることができる。
[0032] (3)第 1の蒸着工程
第 1の蒸着工程は、第 1電極下部 22を形成する。この工程は、一般に公知の蒸着 装置を用いて、おこなうことができる。このとき、絶縁性基板 10の被蒸着面は、蒸着源 力も被蒸着面を臨むとき、傾斜しているように配置される。図 5に示すように、被蒸着 面と、蒸着源力も蒸散する粒子の飛来方向とのなす角を Θ 1としたとき、 0° < Θ 1< 90° となるようにする (該蒸着方法を以下、「傾斜蒸着」と呼ぶ。 ) oこの結果、図 5に 示すように、第 1電極下部 22は、その先端部が傾斜した形状に形成される。このとき の第 1電極下部 22の先端部の傾斜と、基板 10表面とのなす角を 0 1 'とする。ここで 、 θ 1Ί レジストパターン 60の形状、基板 10表面の金属が堆積する特性および、 Θ 1の大きさなどにより、変化させることができる。この Θ 1 'は、各条件が同一であれ ば、再現性よく形成できるため、同条件の蒸着をおこなった結果を、別途測定するこ とで Θ 1 'の大きさは、計測することができる。
[0033] また、蒸着時、蒸着源と被蒸着面の間の距離は、大きいほど蒸着線の平行性が高
くなるため好ましい。この距離は、使用する蒸着装置に依存するが、およそ 500mm 以上離れていれば、本実施形態に必要な蒸着をおこなうことができる。第 1の蒸着工 程は、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル、アルミニウム、コノルト、クロム、ロジウム、 銅、タングステン、タンタル、カーボンおよび、それらの合金、力も選ばれる物質を 1回 または複数回、蒸着する。複数回の蒸着は、たとえば、クロムを蒸着した後、金を蒸 着するという 2層構造を形成するためにおこなってもよい。第 1の蒸着工程によって得 る第 1電極下部 22の厚みは、電気伝導性が確保される範囲であれば任意である。た とえば、材質に金を選んだ場合は、第 1電極下部 22の厚みは、 5nm以上とすること ができる。
[0034] (4)第 1のリフトオフ工程
第 1のリフトオフ工程は、公知の方法にておこなう。この工程は、用いたレジストパタ ーン 60の材質に適合する剥離液を用いる。これにより、第 1電極下部 22が形成され 、同時にレジストパターン 60上に形成された犠牲電極 22aが除去される(図 5参照)。
[0035] (5)第 2のレジストパターン形成工程
第 2のレジストパターン形成方法は、公知の方法たとえばフォトリソグラフィ一法等を 用いる。この工程により、第 2電極 30、および、付随的に第 1電極上部 24を形成する ためのレジストパターン(図示せず)が形成される。該レジストパターンの開口部は、 前述の工程で得られた、第 1電極下部 22の先端部分 (ナノギャップ電極の一方となる 部分)、を横切るように、設けられる。該レジストパターンの厚みは、任意である。
[0036] (6)第 2の蒸着工程
第 2の蒸着工程により、第 2電極 30が形成される。これに伴い第 1電極上部 24が付 随的に形成される(図 2参照)。この工程は、一般に公知の蒸着装置を用いて、おこ なうことができる。この工程は、傾斜蒸着である。図 2に示すように、被蒸着面と、蒸着 源力も蒸散する粒子の飛来方向とのなす角を 0 2としたとき、 0 1 'く 90° のときは、 0° < θ 2< Θ 1 ' < 90° となるように、 90° ≤ 0 1,のときは、 0< 0 2< 90° となる ようにする。この工程により、第 2電極 30の先端部分すなわち、第 1電極 20に対向す る部分が形成される。これに伴い第 1電極上部 24が同時に形成される。第 1の蒸着 工程と同様に、蒸着時、蒸着源と被蒸着面の間の距離は、大きいほど蒸着粒子の飛
行軌跡の平行性が高いため好ましい。この距離は、使用する装置に依存するが、お よそ 500mm以上離れていれば、問題なく蒸着をおこなうことができる。第 2の蒸着工 程は、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル、アルミニウム、コノルト、クロム、ロジウム、 銅、タングステン、タンタル、カーボンおよび、それらの合金、力も選ばれる物質を、 1 回または複数回蒸着する。
[0037] ここで、電極間間隙 40の形成は、第 2の蒸着工程の傾斜蒸着における、蒸着粒子 が形成する第 1電極下部 22の影を利用している。したがって、第 1電極下部 22の厚 み、または、第 2の蒸着工程における傾斜蒸着の角度 Θ 2、の少なくとも一方を調節 することにより、所望の電極間距離 Gを有する電極間間隙 40を得ることができる。そ のため、第 2の蒸着工程によって得られる第 2電極 30の厚みは、第 1電極 20の厚み よりも小さいことが望ましい。
[0038] (7)第 2のリフトオフ工程
第 2のリフトオフ工程は、公知の方法にておこなう。この工程は、用いたレジストパタ ーンの材質に適合する剥離液を用いる。これにより、第 1電極 20および第 2電極 30 が形成され、ナノギャップ電極が得られる。
[0039] (8)電界破断工程
前述のようにして得られた、ナノギャップ電極は、短絡している場合がある。そのた め、必要に応じさらに、本工程をおこなうことができる。電界破断工程は、文献 Appl. Phys. Lett. , 75 (1999) 301に記載の方法を用いることができる。図 6に電界破断 工程をおこなう際の配線の模式図を示す。短絡して!/ヽる電極と直列に可変抵抗 Rv、 固定抵抗 Rcおよび電源を接続し、電圧を印加する。固定抵抗 Rcは、目的量以上の 電流が流れ、電極を破壊しないようにするために設置する。電極間の破断のために 必要な電流量は、数 mA〜数十 mAである。可変抵抗 Rvの抵抗値を初期値 (抵抗大 )からゆっくり抵抗が小さくなるように調節し、電流が流れなくなる時点で止めることに より、所望の電極間距離 Gを有するナノギャップ電極すなわちスイッチング素子 100 を得ることができる。
[0040] (9)封止工程
本工程は、公知の気密封止技術を利用する。セラミック封止、ガラス封止、プラスチ
ック封止または金属キャップによる封止を利用でき、所望の雰囲気中でおこなうことも できる。
[0041] 3.作用効果
本実施形態のスイッチング素子 100は、構造が極めて単純で、安定した繰り返しス イッチング動作が可能である。すなわち、本実施形態のスイッチング素子 100は、ナ ノギャップ電極のみによって構成され、他の有機分子や、無機粒子などが不要な、極 めて単純な構成を有する。また、本実施形態のスイッチング素子 100は、劣化する物 質を含まないため、スイッチング動作を安定に繰り返すことができる。さらに、本実施 形態のスイッチング素子 100は、不揮発性を有する。
[0042] 4.スイッチング動作
本実施形態のスイッチング素子 100の動作の一例を以下に説明する。図 7は、スィ ツチング素子 100の電流 電圧曲線の一例を模式的に示す。図 7の横軸は、スイツ チング素子 100のナノギャップ電極間に印加される電圧に対応し、縦軸は、電流に 対応する。図 7には、説明のため、 Aから Hおよび 0の符号を付した。図 8は、スィッチ ング素子 100のナノギャップ電極間に印加される電圧のシーケンスを模式的に示す。 図 8の横軸は、経過時間を示し、縦軸は、印加される電圧を示す。
[0043] 図 7に示すように、スイッチング素子 100の電流 電圧曲線は、 0点について、点対 称となっているため、スイッチング素子 100に印加する電圧および電流は、スィッチン グ素子 100の極性に依存しない。このため、以下の説明では、図 7は右半分すなわ ち電圧が正の部分について説明し、電圧が負の部分についての説明を省略する。 電圧が負の部分についてのスイッチング動作は、以下の説明の極性を適宜反対にし て読みかえることとする。図 7の B点を通る A点(抵抗最小値の電圧)と C点との間の領 域では、スイッチング素子 100は、印加電圧を高くするにしたがって抵抗が大きくなる 負性抵抗効果を示す。この領域では印加電圧に依存してスイッチング素子 100の状 態が変化する。以下、この電圧領域を遷移領域と呼ぶ。この遷移領域における電圧 を、素子に印カロした状態力も瞬時に電圧を 0点付近の値 (実用的には、 A点付近と E 点付近との間の値)に変化させる(以下このような瞬時に電圧値を 0点付近に変化さ せる操作を「電圧のカット」と呼ぶ。)と、電圧をカットする直前に印加していた電圧値
に対応する抵抗値を得ることができる。このときの抵抗値を決定する遷移状態の電圧 iS A点に近く設定されているほど、素子の抵抗値は小さくなり、また A点より高い電 圧に設定すればするほど、抵抗値は大きくなる (遷移領域における、抵抗値の設定 電圧依存性は、後述の 5.実施例の図 14においてさらに説明する。 ) 0ここで遷移領 域の B点は、電圧をカットした後の、抵抗の小さい状態(以下、「ON状態」という。)と、 抵抗の大きい状態 (以下、「OFF状態」という。)との中間の状態を得られる点をあらわ している。そして、遷移領域の低電圧側の端、すなわち A点付近の電圧をしきい値電 圧と呼ぶ。ここでしきい値を A点付近の値と定義しているのは、動作電圧や測定環境 などによって、遷移領域の中で最小の素子抵抗を得られる電圧であるしきい値力 図 7の A点と必ずしも一致せず、場合によっては多少ずれてしまうためである。
[0044] 次にスイッチング素子 100の動作方法の例を説明する。まず、図 8の Iのような矩形 のパルスを印加し、瞬時に電圧を遮断した状態 Jとする。矩形パルス Iの印加電圧は、 図 7における遷移領域内の B点より高電圧側の位置 Cに相当する。矩形パルス幅は、 Ins以上であることが望ましい。続いて電圧を 0付近にカットした状態が図 8の J領域で あり、図 7における 0点付近に相当する。ここで、図 7に測定電圧として示した微小電 圧を印加すると、電流は、図 7の曲線 Dには乗らず、きわめて小さい電流値を示すこ とになる。すなわち、 OFF状態が得られる。次いで、図 8の Kに示すような矩形パルス を印加し、電圧をカットした状態 Lとする。矩形パルス Kの印加電圧は、図 7における 遷移領域における B点から低電圧側、しきい値電圧付近の領域の電圧に相当する。 矩形パルス Kのパルス幅は、 100ns以上であることが望ましい。 L領域において微小 電圧を印加し、そのときの電流値を測定すると、今度は図 7の曲線 Dに乗り、電流が 流れることになる。すなわち ON状態が得られる。スイッチング動作は、このような電圧 カット前の電圧印加の履歴により、素子の ONおよび OFFを任意に設定できることに よって可能である。
[0045] ここで、 ON状態を得る方法にぉ 、ては、しき 、値電圧付近に滞在する期間が重要 である。すなわちしきい値電圧付近に滞在する期間は、 100ns以上が望ましい。この 滞在する期間の条件が満たされていれば、 ON状態を得るために、図 8における Nの ような三角波を矩形波 Kの変わりに用いることが可能である。ここで三角波 Nは、しき
、値電圧付近を通過させるために、しき!/、値よりも高 、電圧に頂点を有する必要があ る。このときしきい値よりも高い電圧領域に滞在する期間は図 8における三角波 Nの 傾き Qによって調整する。しきい値電圧付近に滞在する期間が 100ns以上となるよう に傾き Qを調整すれば ON状態が得られる。そして逆に、この三角波において滞在す る期間が非常に短いとき、(このときしきい値付近に滞在する時間は 100ns以下が望 ましい)すなわち図 8における三角波 Mを印加すると、素子は OFF状態となる。このよ うに、 OFF状態を得る場合にも矩形波 Iに変わって三角波 Mを用いることが可能であ る。三角波 Mの頂点の値は、矩形波 Iの場合と同様に図 7の C点に設定する。この三 角波 Mにおいても、しきい値付近に滞在する期間は、図 8における三角波 Mの P領 域の傾きによって調整する。
[0046] さらに、スイッチング素子 100の駆動方法は、以上に述べたような矩形波や三角波 のほかにも種々のシーケンスを利用することが出来る。
[0047] 5.実施例
絶縁性基板 10は、厚さ 300nmの酸ィ匕シリコン層で被覆されたシリコン基板を用い た。第 1のレジストパターンの厚みは、 とした。第 1電極下部 22の水平方向の幅 W1は、 100 /z mとなるように第 1のレジストパターンを形成した。第 1電極下部 22は、 絶縁性基板 10と接触する部分に 2nm厚みのクロムを蒸着し、次いで金を蒸着し、合 計の厚みが 25nmとなるようにした。第 1の蒸着工程の傾斜蒸着時の角度 θ 1は、 75 ° とした。第 2のレジストパターンの厚みは、 1 μ mとした。第 2電極 30の水平方向の 幅 W2は、 2 mとなるように第 2のレジストパターンを形成した。第 2電極 30は、絶縁 性基板 10と接触する部分に 2nm厚みのクロムを蒸着し、そのあと金を蒸着し、合計 の厚みが 15nmとなるようにした。したがって、第 1電極 20の全体の厚みは、約 40nm となった。第 2の蒸着工程の傾斜蒸着時の角度 Θ 2は、 60° とした。次いで、第 2のリ フトオフ工程をおこなった。前記の状態でスイッチング素子 100は、第 1電極 20と第 2 電極 30が短絡しているものを含んでいたため、電界破断工程を実施し、短絡部の除 去をおこなった。電界破断の条件は、付加電圧は、 IV、抵抗 Rc値は、 100 Ωとし、 可変抵抗 Rvを 100k Ω力も 0 Ωへ向かって、徐々に下げ、電流量を徐々に増加させ た。電界破断を起こした時の、電流量は約 4mAであった。以上のようにしてスィッチ
ング素子 100を得た。得られたスイッチング素子 100は、真空チャンバ一内に設置し た。このときの真空チャンバ一内の圧力は、 10_5Pa台であった。
[0048] 本実施例のスイッチング素子 100を走査型電子顕微鏡にて観察した結果を、図 9 に示す。走査型電子顕微鏡、日立製作所製 S— 4300を用いて、加速電圧 15kVに て撮影した。加熱ステージを用い、走査速度を大きくしているため、分解能は 5nm程 度である。図 9は、第 1電極 20の一部(上)、第 2電極 30の一部(下)および電極間間 隙 40の一部(写真中央横方向の暗部)が撮影されたものである。図 9に見られるよう に、電極間間隙 40には第 1および第 2電極が接近した部分が複数観察された。下向 きの太い矢印は、電極が接近している部分を示し、その矢印の左側に読み取るため の補助線として間隙の幅を示す 2本の線を描いた。各間隙の幅を計測したところ、観 察した領域における第 1電極 20と第 2電極 30の間の距離 Gは、約 8nmであることが わかった。スイッチング素子 100の 2つの電極間の近接部位は、観察した領域以外に も存在することが予想される。近接部位がさらに小さい距離の場合は、顕微鏡の分解 能が不足するため、計測不可能である。そこで、得られている抵抗値から 2つの電極 間の最近接部位の距離を予想した。 2つの電極間の電気抵抗値は、素子が ON状態 において、約 60k Ωであったことから、トンネル効果力も計算したところ、少なくとも 0. lnm以上であることがわかった。
[0049] 図 10は、素子特性の評価をおこなった回路の模式図である。前記評価回路は、真 空チャンバ一内において、マイクロプローバー装置を用い、前記スイッチング素子 10 0を接続して形成した。図 11は、本実施形態のスイッチング素子 100の I—V特性を 図 10に示した回路にて測定した結果を示すグラフである。図 11のグラフの横軸は、 回路電圧から、固定抵抗 Rmの両端の電圧を差し引いた、スイッチング素子 100に印 加される正味の電圧を示す。図 10の縦軸は、各電圧印加時に流れる電流を電流計 にて測定した値を示す。図 11における I—V特性の測定は、印加電圧を、測定開始 時において 0Vとし、その後、 +0. 2VZsの掃引(スイープ)速度で、 + 15Vまで掃引 し、次いで、 -0. 2VZs掃引速度で、 15Vまで掃引し、さら〖こ、 +0. 2VZsの掃 引速度で + 15Vまで掃引し、このサイクルを繰り返した。図 11は、前述の図 7に対応 するものである。
[0050] 図 11をみると、本実施形態のスイッチング素子 100の I—Vカーブは、印加電圧が +4Vおよび— 4Vであるとき、電流の絶対値が最大を示している。 +4Vよりも大きい 電圧のとき、電流の絶対値は、急激に低下し、—4Vよりも小さい電圧のとき、電流の 絶対値は、急激に低下した。この現象を利用して、 4.スイッチング動作の項目で述 ベたように、スイッチング動作をおこなった。すなわち、電圧の絶対値が 4V付近をし きい値電圧とした(図 7における A、 B、 Eおよび F付近に相当)。
[0051] 図 12は、本実施例の電圧シーケンスの模式図である。本実施例では OFF状態に 変化させるためのパルスの電圧は、 + 10Vとし、 ON状態に変化させる三角波は + 9 Vから + 3Vへと掃引し、 + 3Vで電圧をカットした三角波とした。図 12に示すように、 最初に + 10V、 100msの矩形パルス Iを印加し、次の約 24秒間、 J領域において測 定電圧 + 0. 2Vで抵抗値を測定した。次に図 12の領域 Kで示すように、 + 9Vから + 3Vまで 1秒かけて電圧を掃引しカットした。次の約 24秒間、 L領域において測定電 圧 + 0. 2Vで抵抗値を測定した。この一連の測定を 1サイクルとし、抵抗測定を 1000 サイクルおこなった。
[0052] 本実施例の抵抗測定結果の一部を、図 13に示した。図 13は、横軸に経過時間、 縦軸に + 0. 2V電圧印加時の抵抗値を示す。図 13に示すとおり、本実施形態のスィ ツチング素子 100は、繰り返し ON、 OFF動作をおこなう場合において、 ON状態およ び OFF状態における抵抗値が試験開始時から、ほとんど変化しない。また、 1000サ イタル測定をおこなった後でも、 ON状態および OFF状態における抵抗値が試験開 始時から、ほとんど変化しな力つた。すなわち、スイッチング素子 100の第 1電極 20と 第 2電極 30の間の抵抗値は、 ONの状態では、 10kQ〜200kQであり、 OFFの状 態では、 100Μ Ω〜: LOG Oであった。
[0053] このことは、スイッチング素子 100力 外部からの電圧入力に応じて、 ON、 OFF状 態を自由に採り得ることを示している。また、電圧パルスを与えた後は、電圧を印加し なくても、素子の ONまたは OFF状態を維持できるため、スイッチング素子 100は、不 揮発性を有するスイッチング素子であることがわかる。
[0054] 図 14は、横軸に OFF状態にするためのパルスの電圧を、縦軸に該パルス直後の スイッチング素子 100の、両端間の抵抗値をプロットしたグラフである。図 12を用いて
説明すると、図 14は、最初の 100msの矩形パルス Iの電圧を横軸に、その後の J領域 で測定される抵抗を縦軸にとり、この測定を繰り返したときのグラフである。図 14をみ ると、パルスの電圧が + 5V付近より大きくなると、抵抗値は 1Μ Ωを超え、 OFF状態 が達成されていることが分かる。さらにパルスの電圧を大きくし、 + 10V付近を超える と、抵抗値は、 1G Qを超え、さらにパルスの電圧が + 13V付近を超えると、抵抗値は 1ΤΩを超えている。すなわち、スイッチング素子 100は、 OFF状態にするためのパ ルスの電圧の大きさに従って、任意に OFF時の抵抗値を設定できるスイッチング素 子であることが分かる。これにカ卩えてさらに ON状態は +4V付近で得ることができる ため、スイッチング素子 100は、少なくとも 4段階の抵抗状態を任意に得ることができ る。すなわち、スイッチング素子が ONの状態では、 11^Ω〜1Μ Ωであり、前記スイツ チング素子が OFFの状態では、 1Μ Ω〜: ίΟΟΤΩとすることができる。また、たとえば 、ナノギャップ電極を用いたスイッチング素子は、 ON状態では数 ΚΩ〜100ΚΩで あり、 OFF状態では、数 100ΚΩ〜数 であるものとすることができる。これらの抵 抗値の状態から任意に 2つの状態を選べば、相対的に小さい抵抗値と、大きい抵抗 値とを生成可能な素子としても利用できることが分力る。
以上説明したとおり、本実施形態に力かるスイッチング素子 100は、有機分子、ナノ 粒子などの、成分を用いない、極めて単純なスイッチング素子である。そのうえ、スィ ツチング素子 100は、スイッチング動作をきわめて安定に繰り返すことが可能である。 すなわち、本実施形態のスイッチング素子 100は、構造が極めて単純で、かつ、安定 した繰り返しスイッチング動作が可能な不揮発性スイッチング素子である。